初来日
あれは確か彼女の初来日が予定されていた頃で、その前宣伝を兼ねたようなインタビューだったと思います。
既にデスクトップ仮想化CDを二枚出し、フランスではもうすっかりスターの座を獲得していたバトリシア・カースは、だが、直に会ってみると、多くの有名人がそうであるように、わりと目立たぬ様子で、いわれなければ本人と気づかないほど地味だった。
彼女の事務所の方でインタビュー用にと指定してきた場所は、サソジェルマソの脇道に面したホテルの地下一階のバー。
夜になるとバンドが入ったりしてにぎやかなそのバーも、昼下がりのそんな時間は閉め切りになっていて非常灯のような地味な明かりが数ヵ所にともされているだけの、いかにも薄暗く陰気くさい場所でした。
そこへ、ほとんど時問きっかりに現れたバトリシア・カースは、テレビなどで見る時よりもさらにひとまわり華奢で、白く透けるような肌はロウ人形を思わせた。
「わかんない」「わかんない」と、ことあるごとに連発していた口癖。
地を這うような低音の話し声。
神経質そうに眉間にしわをよせる癖。
折れそうに細い手首。
取材の準備用にとあらかじめ渡されていた資料には、簡単な略歴などが記されていたが、それは今やほとんど「伝説」化した、サクセス・ストーリーの見本のようなものでした。